1. はじめに:その「すごい経歴」、本当に今の事業に必要ですか?前回の記事(新規事業立ち上げの理想と現実② 事業計画編)では、事業計画を「物語」として描き、仲間や投資家を巻き込む方法を解説しました。いかに素晴らしい物語を描いても、それを実現する「仲間」がいなければ、事業は一歩も前に進みません。では、あなたの物語を実現する最初の仲間は、どんな人がふさわしいでしょうか?多くの人が「理想」として思い描くのは、各分野の輝かしい経歴を持つ「専門家」を集めた、完璧なドリームチームだと思うかもしれません。しかし、新規事業立ち上げの「現実」は、そんなに甘くはありません。本記事では、立ち上げ初期のカオスな状況で活躍できる“スイスアーミーナイフ”のような「万能選手」の重要性を解説します。なぜ、最初の仲間は特定のスキルを持つ「専門家」ではなく、領域を越えて泥臭く動ける「実践型のエース」であるべきなのか。その理由を、現場のリアルな視点からお伝えします。 2. 理想:各分野の「専門家」を集めた、完璧なドリームチーム新規事業を立ち上げる時、多くの人が思い描く理想のチームとは、映画『アベンジャーズ』のように、各分野のトップランナーが集結した“ドリームチーム”ではないでしょうか。①マーケティングの専門家:市場を鋭く分析し、完璧な戦略を立案。リリース初日から市場の注目を独占する。②開発の専門家:最新技術を駆使し、洗練されたプロダクトを高速で生み出す。③営業の専門家:豊富な人脈を活かし、次々と大型契約を獲得する。それぞれのメンバーが自分の専門領域に100%集中し、最高のパフォーマンスを発揮する。役割分担は明確で、無駄なコミュニケーションは一切ない…。一見すると、これ以上なく効率的で、成功への最短ルートのように思えます。では、なぜ多くのスタートアップがこの「ドリームチーム」に憧れ、失敗してしまうのか。次章では、この理想論に潜む、新規事業初期ならではの「現実」と「ワナ」について解説します。3. 現実:初期フェーズで本当に必要なのは「万能選手」である前章で描いた「ドリームチーム」は、なぜ新規事業の初期には機能しにくいのでしょうか。理由は明確です。立ち上げ期の現実は、きれいに切り分けられた「専門領域」など存在しない、混沌とした「荒野」だからです。① 専門家は「自分の専門領域」から出たがらないマーケティングの専門家は戦略を練り、開発の専門家はコードを書きます。では、顧客対応や展示会での販促といった雑多な業務は、一体誰の仕事でしょうか?立ち上げ期には、こうした「誰もがやりたがらないが、事業にとっては重要な仕事」が山のように発生します。専門家は「それは私の仕事ではない」と考えがちで、結果として重要なタスクが放置され、チーム内に不協和音が生じるのです。② 答えのない問いに、「正解」を求めてしまう専門家は、自身の領域で「正解」を出すための訓練を積んできています。しかし、新規事業の初期フェーズに“唯一の正解”は存在しません。あるのは「おそらくこうではないか?」という「仮説」だけです。「どのWeb広告が最も効果的か?」という問いに、正解はありません。「少額で試してみて、結果を見る」が唯一の答えです。専門家は時に、この「やってみないと分からない」という不確実性を嫌い、行動する前に完璧な分析をしようとして、時間を浪費してしまうことが少なくありません。③ そもそも、そんな人材は採用できない(予算がない)そして何より、これが最も切実な現実です。各分野のトップランナーレベルの専門家を、複数人雇えるだけの資金的余裕があるスタートアップは、ほとんど存在しません。理想のドリームチームは、多くの場合、資金的な幻想に過ぎないのです。専門領域に固執せず、変化を楽しみながら、泥臭い仕事も厭わない。そんな「万能選手」こそが、新規事業の初期フェーズを乗り切るための鍵となります。では、具体的にどのような「役割」を担う人材が必要なのでしょうか。次章で詳しく解説します。4. あなたのチームに今必要な3つの役割では、新規事業の初期フェーズを乗り切る「万能選手」とは、具体的にどのような役割を担う人なのでしょうか。立ち上げ期のチームに必要なのは、立派な「役職」ではなく、3つの「役割」だと私たちは考えています。① ビジョンを語り、仲間を集める「伝道師」どんな事業も、始まりは一人の熱狂から生まれます。「この事業でどんな未来を実現したいのか」というビジョンを、社内外の協力者に対して、誰よりも熱く、繰り返し語り続ける役割です。この役割は、必ずしも創業者やリーダーである必要はありません。チームの中で、最もその事業の未来を信じ、語る言葉に熱がこもる人物が、自然と「伝道師」となります。② 顧客の声を聞き、プロダクトを作る「開発者」「伝道師」が語るビジョンを、具体的な形(プロダクトやサービス)に落とし込む役割です。重要なのは、ただ作るだけでなく、顧客ヒアリングなどを通じて得たリアルな声に基づき、高速で試作品を作り、改善し続ける「学習能力」が求められます。完璧なプロダクトを目指すのではなく、顧客の課題を解決するための最小限の機能を、誰よりも早く市場に届ける姿勢が求められます。③ 泥臭く、最初の顧客を見つける「開拓者」どれだけ素晴らしいプロダクトがあっても、それを使ってくれる最初の顧客がいなければ、事業は始まりません。この役割は、あらゆる手段を使って最初の顧客を見つけ出し、「お金を払ってでも使いたい」という熱狂的なファンを作ることにコミットします。人脈を頼りにした営業、SNSでの発信、イベントでの声かけなど、手段は問いません。プライドを捨てて顧客と真正面から向き合い、最初の成功事例を生み出すことがミッションです。理想は、これらの役割を2〜3人のメンバーで兼任することです。例えば、リーダーが「伝道師」と「開拓者」を兼ね、もう一人が「開発者」を担う、といった形です。重要なのは、肩書ではなく、この3つの役割がチームとして果たせているかどうかです。5. おわりに:チームとは「状態」であり、完成形ではない本記事では、新規事業のチーム作りにおける「理想と現実」をテーマに、立ち上げ初期に本当に必要なのは、特定のスキルを持つ「専門家」ではなく、領域を越えて泥臭く動ける「万能選手」であることを解説しました。むしろ、完璧なスキルセットを持つドリームチームを最初から目指す必要はありません。「伝道師」「開発者」「開拓者」という3つの役割が、たとえ少数でもチームとして果たせているかどうかが、事業を前進させる鍵となります。 何を隠そう、私たち”営業の伴走さん”も、チーム作りの「理想」と「現実」のギャップに何度も苦しんできました。輝かしい経歴を持つ「専門家」に過度な期待を寄せたり、役割が曖昧なまま突き進んでチームが機能不全に陥ったり…。理想論だけでは、決して事業は前に進まないことを痛感してきました。 だからこそ、私たちは机上の空論ではなく、現場で本当に機能するチームの作り方を知っています。そして何より、その過程でリーダーが抱える孤独と痛みを、身をもって知っています。もし、あなたが今、理想のチーム作りと、目の前にいるメンバーとのギャップに悩んでいるなら。あるいは、これから踏み出す一歩に不安を感じているなら。まずは、私たちの「失敗談」を聞きに来る感覚で、無料の壁打ち相談にお声がけください。