1. はじめに:「プロダクトさえ良ければ売れる」という、甘い幻想これまでのシリーズで、新規事業の市場リサーチ、事業計画、チーム作り、そしてKPI計測(の考え方)について解説してきました。(前回の記事はこちら:リンク:新規事業立ち上げの理想と現実④ KPI計測編)計画は練り上げられ、最高の仲間も集まった。素晴らしいプロダクトのプロトタイプも、いよいよ完成間近。さあ、あとはWebサイトを公開し、問い合わせを待つだけだ…。本当に、そうでしょうか?「良いプロダクト(サービス)さえ作れば、顧客は自然と集まってくるはずだ」これは、多くの新規事業担当者が抱きがちな非常に危険な「理想論」です。本記事では、この甘い幻想を打ち砕く「現実」と、最初の顧客を獲得するために、あなたが今すぐ取るべき具体的な「最初の一歩」について解説します。セオリーのない、最も困難なこの壁を乗り越えるための、泥臭くとも確実な方法をお伝えします。 2. 理想:Webサイトを公開すれば、自然と問い合わせが来るはずだ多くの人が思い描く、新規事業の「理想的な」顧客獲得プロセス。それは、洗練されたWebサイトを公開し、そこにブログ記事やホワイトペーパーといった質の高いコンテンツを掲載すれば、検索エンジンやSNS経由で自然と見込み客が集まってくる──そんな“理想の流れ”を想像する人は多いでしょう。・素晴らしいプロダクト(サービス)がある。・ターゲット顧客の課題を解決するコンテンツもある。・あとは、Webサイトという「お店」を開けて待っていれば、顧客は自然と集まってきてくれるはずだ。この考え方は、ある程度事業が軌道に乗り、ブランド認知が広がり始めた段階では、確かに有効です。しかし、まだ誰もあなたの会社もプロダクトも知らない「立ち上げ初期」においては、残念ながら、これはほとんどの場合、幻想に終わります。なぜなら、大海原のようなインターネットの世界で、生まれたばかりのあなたのWebサイトを、顧客が偶然見つけてくれる可能性は、ほぼゼロに等しいと言っていいでしょう。SEO対策も、コンテンツマーケティングも、Web広告も、それらが効果を発揮するには、ある程度の時間、そして何より「顧客が誰で、何を求めているか」という初期の仮説検証(=最初の顧客獲得)が必要です。では、Webサイトが機能する前の「最初の顧客」は、一体どこにいるのでしょうか?次章では、その厳しい「現実」について解説します。3. 現実:しかし、最初の顧客は「待っていても」絶対に現れない前章で描いた「Webサイトを公開したまま“待つだけ”という理想的な姿」。残念ながら、それは新規事業の立ち上げ期においては、ほぼ確実に失敗するアプローチです。なぜなら、繰り返しになりますが、まだ誰もあなたの存在を知らないからです。例えば、想像してみてください。あなたが今日、砂漠の真ん中に突如とても素晴らしいレストランを開店したとします。そのレストランの存在を誰かに知らせなければ、お客さんが偶然通りかかる可能性はあるでしょうか?答えは、言うまでもなく「ノー」です。新規事業の立ち上げ初期におけるWebサイトも、これと全く同じです。インターネットという広大な砂漠の中に、ぽつりと佇む、名もなきお店。どれだけ素晴らしい料理(プロダクト)を用意しても、どれだけ美しい看板(Webサイト)を掲げても、そのお店の存在自体が知られなければ、顧客は一人もやってきません。最初の顧客は、“待つ”ものではなく、“探しに行く”ものです。では、Webサイトや広告といった「待ち」の武器が機能する前に、私たちは具体的にどのような「攻め」のアクションを取るべきなのでしょうか。次章では、セオリーなきこの問いに対する、泥臭くとも確実な「最初の一歩」の選択肢を解説します。4. セオリーはない。だからこそ動く「最初の一歩」3つの選択肢では、具体的にどうやって「探しに行く」のか?残念ながら、新規事業の最初の顧客獲得に、決まった型や正解は存在しません。あなたの事業内容、ターゲット顧客、そしてあなた自身の強みによって、取るべきアクションは千差万別です。しかし、「これだけは絶対にやるべき」と言える、いくつかの泥臭くとも確実な「最初の一歩」は存在します。ここでは、その代表的な3つの選択肢をご紹介します。① 知人・友人に正直に頭を下げる(紹介をもらう)最も確実で、最初に試すべきなのが、あなたのことを既に知っている人たち、つまり知人や友人のネットワークを頼ることです。「知り合いに売り込みなんて……」とプライドが邪魔するかもしれません。しかし、思い出してください。あなたは今、砂漠の真ん中でレストランを開店したばかりなのです。まずは、あなたを応援してくれる人に正直に助けを求めましょう。「もしあなたの周りに、こんなことで困っている人がいたら紹介してくれませんか?」と頭を下げる、これが最も確実な最初の一歩です。② ターゲットがいそうな場所に飛び込む(コミュニティ参加、イベント出展)あなたの未来の顧客は、どこに集まっているでしょうか?業界のイベント、Facebookグループ、勉強会……。オンラインでもオフラインでも構いません。まずは、ターゲット顧客が集まるコミュニティに、あなた自身が飛び込んでみましょう。目的は、いきなり売り込むことではありません。まずはコミュニティの一員として貢献し、信頼関係を築くこと。そして、その中で「こんなことで困っている人はいませんか?」と問いかけ、ニーズを探ることです。運が良ければ、その場で最初の顧客が見つかるかもしれません。③ SNSで勇気を出してDMを送る(直接アプローチ)もし、あなたがターゲットとする顧客のリスト(企業名や担当者名)がある程度具体的に見えているなら、SNS(LinkedInやXなど)を活用した直接アプローチも有効です。もちろん、一方的な売り込みDMは嫌われます。「〇〇様の△△に関する発信を拝見し、共感しました。実は私も□□という領域で新しい挑戦をしており、もしよろしければ一度、ご意見を伺えませんか?」といった形で、相手への敬意を示しつつ、まずは「話を聞いてもらう」ことから始めましょう。断られることも多いですが、数を重ねることで、必ずチャンスは訪れます。これらの行動は、スマートではないかもしれません。しかし、Webサイトの前でただ待つよりも、遥かに確実に、あなたを最初の顧客へと近づけてくれるはずです。5. おわりに:最初の顧客獲得は「営業」ではなく「仲間探し」である本記事では、新規事業における最初の顧客獲得について、その「理想と現実」を解説しました。「Webサイトで待つ」という理想論を捨て、「自ら探しに行く」泥臭いアクションこそが、唯一の道であるとお伝えしました。セオリーのない、孤独な戦い。それが、新規事業の最初の顧客獲得です。何を隠そう、私たち "営業の伴走さん” も、この「最初の1社」を見つけるまでに、数えきれないほどの試行錯誤と、心が折れそうな瞬間を経験してきました。誰も見向きもしてくれないプロダクトを前に途方に暮れたり、勇気を出して送ったDMが全く無視されたり……。だからこそ、私たちは知っています。最初の顧客獲得は、単なる「営業」ではありません。言い換えれば、あなたのビジョンに共感し、未完成なプロダクトを一緒に育ててくれる「最初の仲間」を探す旅なのです。もし、あなたが今、その「仲間探し」の道で迷っているなら。あるいは、孤独な戦いに疲れ果てそうになっているなら。まずは、私たちの「失敗談」を聞きに来るくらいの気持ちで、無料の壁打ち相談にお声がけください。セオリーのない道だからこそ、隣を歩く伴走者が、あなたの力になれるはずです。