1. はじめに:マーケは「達成会」、営業は「反省会」。社内で起きる悲劇のコントラスト前回の記事(事業を「科学」するKPIマネジメント講座①)では、KGIから逆算して「因果関係」のある先行指標を見つける、ロジックツリーの作り方を解説しました。今回は、その思考法を「マーケティングと営業の連携」という、組織の分断が最も起きやすいテーマに応用します。月末の定例会議の日。あなたの会社でも、こんな光景が起きていませんか?マーケティングチームは、居酒屋で祝杯をあげています。「今月もリード獲得目標(CPA)、120%達成! リスティング広告の改善が効いたね!」一方その頃、営業チームは会議室で沈痛な空気のまま反省会を開いています。「リードは来るけど、電話しても全然繋がらないし、繋がっても『資料が見たかっただけ』って切られる……。こんなリストでどうやって数字を作れって言うんだ」マーケは「仕事を完遂した」と胸を張り、営業は「マーケが役に立たない」と不満を募らせる。同じ会社の売上を目指しているはずなのに、両者の間には深くて冷たい溝がある。いわゆる、マーケと営業の“冷戦”状態です。なぜ、こんな悲劇が起こるのでしょうか?マーケターが数字遊びをしているから? 営業のスキルが足りないから?いいえ、違います。最大の原因は、お互いが見ている“ゴールの物差し(KPI)”が、最初からズレていることにあります。「数(リード数)」を追うマーケティングと、「質(受注)」を求める営業。この構造を放置したままでは、どれだけ施策を打っても事業は前に進みません。本記事は、「事業を『科学』するKPIマネジメント講座」の第2回。感情論になりがちな「リードの質」という問題を、言葉の定義と数値のロジックで科学的に解決し、マーケと営業が背中を預け合える「最強のタッグ」を作るためのKPI設計術をお伝えします。 2. 原因の解明:なぜ「リードの質」は噛み合わないのか - 言葉のズレが生む組織の断絶定例会議の終盤、またしても火花が散ります。「もっと質の高いリードをくれよ!」「いや、ターゲット通りの(従業員規模や業種の)企業を集めているじゃないか!」繰り返される、この不毛な押し問答。実はお互いが間違っているわけではありません。問題なのは、「質(Quality)」という言葉の定義が、マーケと営業で決定的に異なっていることです。両者の脳内変換は、以下のようになっています。① マーケターにとっての「質」=「属性(Who)」マーケティング担当者は、リードの質を「静的なデータ(属性)」で判断します。・ターゲットの業種か?・従業員規模は適切か?・決裁権のある役職か?これらが合致していれば、マーケターにとっては「(ターゲット定義上の)質の高いリード」であり、KPI的には“成功”とみなされます。② 営業にとっての「質」=「状態(When)」一方、営業担当者は、リードの質を「動的なコンテキスト(今、その気があるか)」で判断します。・課題認識はあるか?・予算は確保できそうか?・今すぐに検討しているか?たとえ大手企業の役員でも、「今は情報収集しているだけ(その気はない)」のであれば、営業にとっては“今すぐ売れない=質の悪いリード”です。ここに、“冷戦”の正体があります。マーケティングは「属性(Who)」を見てボールを投げ、営業は「状態(When)」を見てボールを待っている。これでは、パスが繋がるはずがありません。この“言語の不一致”を放置したまま、SFAツールを導入したり仕組みを整えたりしても、混乱はむしろ加速します。次章では、このズレを埋めるために、リードの受け渡し基準(MQLとSQL)をどのように定義・合意すべきか、具体的な手法を解説します。3. 解決の型:ツールを入れる前に「定義」を決めろ。MQLとSQLの境界線言葉の定義がズレているなら、まずやるべきことは一つ、“共通言語”を作ることです。ここで登場するのが、BtoBマーケティングの基本概念であるMQL(Marketing Qualified Lead)とSQL(Sales Qualified Lead)です。横文字にアレルギーがある方もいるかもしれませんが、意味は単純です。・MQL(マーケが“渡す”基準):マーケティングが「これは営業に渡すべきだ」と判断したリード・SQL(営業が“受け取る”基準): 営業が「これなら商談として追いかける」と認めたリード多くの企業で冷戦が起きるのは、この2つの境界線(パスの受け渡し地点)が曖昧だからです。マーケは「名刺を獲得した時点でMQL(パス)」と捉え、営業は「案件化して初めてSQL(キャッチ)」と考えている。この間に落ちてしまうボールこそ、「質が悪い」と言われるリードの正体です。解決のためには、ツール設定の前に、現場同士で腹を割った「握り(合意形成)」が必要です。「従業員100名以上で、かつ資料請求ページを見た人なら、電話をかける価値はあるか?」「役職者なら、まだ検討段階でもアポを取る意味はあるか?」このように、具体的な条件を一つひとつ営業とすり合わせ、「ここまではマーケが育てる」「ここからは営業が攻める」という境界線を引くのです。マーケティングのKPIは「リード獲得数」ではありません。「営業と合意した定義(MQL)を満たすリードの数」です。営業が「欲しい」と言った条件を満たしているなら、たとえ受注に至らなくても「質が悪い」という不満は出ません。それは営業力の問題になるからです。では、具体的にどのような条件(フラグ)を組み合わせれば、双方が納得するMQLを定義できるのでしょうか? 次章では、「属性」と「行動」を掛け合わせた具体的なスコアリング手法について解説します。4. 実践ステップ:「なんとなく良さそう」を排除する。属性×行動でスコアリングする具体的な手順「営業との合意」と言っても、感覚的な「良さそうなリスト」という曖昧な約束では、すぐに認識がズレてしまいます。そこで必要なのが、客観的な数値で判断する「スコアリング」という手法です。複雑に考える必要はありません。判断軸は、たった2つです。① 属性スコア(Who):自社のターゲットに合致しているか?「誰が」そのアクションをしたか、という静的な情報です。・役職:部長以上なら+10点、一般社員なら+1点・規模:従業員100名以上なら+5点・業種:製造業なら+5点スコアが高いほど、「契約に至る可能性(ポテンシャル)」が高いことを示します。② 行動スコア(Action):今、興味を持っているか?「何をしたか」という動的な情報であり、営業が重視する「タイミング」を測る指標です。・資料請求:+20点(興味あり)・料金ページ閲覧:+15点(比較検討中)・メルマガ開封:+1点(情報収集中)・採用ページ閲覧:-50点(就職希望者の可能性大)スコアが高いほど、「今すぐ話を聞いてくれる確度」が高いと判断できます。この2つを掛け合わせ、「合計スコアが〇〇点以上になったらMQLとして営業に通知する」──このルールをSFA/MAツールに設定します。これが「仕組み化」です。例えば、「部長クラス(属性高)」が「料金ページを何度も見ている(行動高)」なら、確度の高い“ホットリード”として即座に営業へパスします。逆に、「一般社員(属性低)」が「ブログを読んでいるだけ(行動低)」なら、まだ営業は動かず、メルマガで育成(ナーチャリング)を続けます。ポイントは、この点数配分や合格ラインを「営業と一緒に決めること」です。マーケが一方的に決めた点数ではなく、営業が「この条件なら動きたい」と納得したスコア──それこそが、組織を前に進める“生きたKPI”なのです。5. おわりに:マーケティングのゴールは「集客」ではなく、営業との「握り」である本記事では、マーケティングと営業の間で続く“冷戦”の正体はその原因が“リードの定義のズレ”にあることを紐解きました。・マーケは「属性(Who)」を見て、営業は「状態(When)」を見る。・このズレを埋めるために、MQL(渡す基準)とSQL(受け取る基準)を明確にする。・属性と行動をスコア化し、数値で“握り”を取る。これらを実践すれば、「質の悪いリードばかり送ってくる」という不毛な批判はなくなり、マーケと営業は同じゴール(売上)を目指す“共闘関係”へと変わります。しかし、この「合意形成」を社内の人間だけで進めるのは、決して容易ではありません。過去のしこりや部門間の政治、そして日々の業務の忙しさが邪魔をして、どうしても感情的な対立が生まれやすいからです。私たち“営業の伴走さん”は、戦略を描くだけでなく、現場に深く入り込み、組織をつなぐ“実行伴走型”の支援を得意としています。もし、「第三者の視点でマーケと営業の間を取り持ってほしい」「自社に最適なMQL/SQLの定義を一緒に壁打ちしたい」と感じたら、まずは無料の壁打ち相談から、お気軽にお声がけください。あなたの組織の“冷戦”を終わらせ、再びチーム全員が同じゴールを見据えて進めるように、その第一歩を一緒に見つけましょう。